今回の記事では、前回話したファンダメンタルズ分析と関連づいた本質的な話になるので、もしまだ前回の記事を読んでいない人は、先に前回の記事を読んでから再度当記事を読むことをオススメする。
大手投資銀行のトレーダーは何を元に通貨の予測をしているかについて話して行こうと思う。大手投資銀行のトレーダーは決してテクニカル分析が得意とは思わない。しかし、マイナスを出してしまった場合には大事になるため、慎重にトレーディングしているはずだ。
個人トレーダーでは、小さな誤差が命取りになり得るが、このような大きな金額を運用するトレーダーにとっては誤差は広く取り、大きな流れの中で運用することを心掛けていると感じる。その中で、3つの説と7つのモデルに乗っ取りトレーダーは運用しているのではないかと思うことを、記して行こうと思う。
この記事では、7つある内の1つ目「国際収支」について話していく。
国際収支説
国際収支説は、為替レート自体はその国の経常収支が安定する水準で決定づけられる。と言う考え方である。貿易赤字の国は、輸出業者が代金を受け取るには、自国通貨を売るため外貨準備が減少する事になる。こうして通貨が安くなれば、その国の輸出企業は外国へ安く販売することができ、それにより輸出は活発化する。こうして通貨は均衡化していくと考えられている。
国際収支
国際収支には、経常収支と資本収支がある。
経常収支は、自動車や家電などモノの輸出入を測る統計。
資本収支は、株式投資や債券投資など資金の流出入を測る統計。
国際収支計は、BEA(米国商務省経済分析局)のウェブサイトで見ることができるので、ぜひ参考にして欲しい。
貿易収支
貿易収支は、一定期間における国の輸出と輸入の差額のこと。輸出金額よりも輸入金額が多ければ、貿易収支は赤字になる。貿易収支は、世界各国へ金銭の再配分を示し、一国のマクロ経済政策が他国に影響を及ぼす重要な経路になる。
通常であれば、貿易収支が赤字になるのは、当国の通貨に悪影響を及ぼすため、良い事ではないと捉えられている。
例
日本の貿易統計が輸入超過状態(輸入金額が輸出金額よりも多い状態)にあれば、多くの日本円が日本から流出するため、円安になる。
逆に、貿易収支が黒字状態にあれば他国通貨に対して、円高になる。
資本収支
国間では、貿易だけでなく資本移動も発生する。資本移動とは、企業・株式・債券・銀行預金・不動産・生産工場設備の全部または、一部支出など一国の資本流出入を集計したものである。
資本移動は、他国の金融情勢や経済状況など様々な要因を受け、物的投資や証券投資と言った形で発生する。発展途上国は、外国からの直接投資や銀行融資に偏る傾向にある。
逆に、先進国では株式市場や債券市場が発達しているため、銀行融資や他国からの直接投資よりも株式や債券への投資が重要だとみなされている。
株式市場
株式市場は、大量の通貨取引を伴う。そのため、為替市場に大きな影響をもたらす。特に株式市場での取引が発達している先進国の通貨にとって非常に重要である。株式市場では、主に外国人投資家が資金を出し入れしていると考えて欲しい。株式市場への外国からの投資については、市場が整備されていることや平均株価も重要だが、基本的には個々の企業や業種の調子の良さを反映している。
外国の投資家が、特定の株式市場に資金を投じるときに、為替相場に反映される。彼らが投資先の国の通貨に両替することで需要が高まり、その国の通貨は上昇する。しかし、株式相場が下落すると、外国の投資家は株式を売り払い、売った事で戻ってきた通貨で自国通貨を買い戻すため、株式市場へ資金を投じられていた国の通貨は下落する。
債券市場
債券市場が為替相場に及ぼす影響は、株式市場と同様である。債券市場の投資家は、一国の経済の整備や健全性、金利だけに留まらず、企業の財務内容を始め格付けにも関心を寄せている。一国の債券市場に対して他国の資本が流出入するときには、通貨の需給に変化をもたらすため、為替相場の変動に繋がる。
貿易収支・資本収支まとめ
国際取引の基本は、2つの収支の差額である。貿易収支(経常収支)と対外・対内証券投資(資本収支)で構成されているものだ。
貿易収支が赤字ということは、「外国に物を売る<外国から物を買う」と言うこと。逆に貿易収支が黒字ということは、「外国に物を売る>外国から物を買う」という事になる。
資本収支が赤字ということは、直接投資や証券投資の「流入額<流出額」ということ。逆に資本収支が黒字ということは、外国からの「流入額>流出額」ということになる。
貿易収支と資本収支を合計すると、国際収支になる。理論上では、為替レートを維持するためには、この2つのデータを差し引きして0にならないと成り立たない。
貿易収支と資本収支の合計額が赤字であれば、その国の通貨は安くなる。逆に合計額が黒字であれば、その国の通貨は高くなることを覚えておくと良い。
国際収支の変化で、為替レートの変化に影響を及ぼすことは明らかである。日本の貿易赤字が増加し、資本流入が減少しているデータがあれば、それは日本の国際収支が赤字になる可能性があるため、投資家は円安を予想することになるだろう。
国際モデルには限界がある
国際収支モデルは、主にモノやサービスの国際間での貿易を重視した見方のため、資本収支を考慮されていない。1990年代終盤までの為替相場では、資本収支を調整して貿易収支を小さく見せることがあったため、米国のような債務国の経常赤字は均衡することになっていた。
例えば、1999年-2001年に日本は大幅な経常黒字を計上したが、米国は巨額の計上赤字を出し続けていた。普通に考えれば、ドル円チャートは下落する(円高になる)はずだったが、ドル円は上昇した。
これは、国際収支モデルを一定期間、調整していたため、資本収支と貿易収支が均衡したためである。資本移動が増加したため、資産市場のリモデリングの必要性が生じた。
このことから、経常収支のみを考慮した国際収支には限界があるのである。しかし、1990年代までは、国際収支の大部分が貿易収支であったため、このような通貨予測モデルが存在した事実を覚えておいてほしい。