投資銀行の通貨予測モデル「第四弾」マネタリーモデルについて解説。投資銀行の歴史的な手法についてシリーズ化しているため、前回の「金利平価」について読んでいない人は、そちらから読んで頂くと、より理解が深まるかと。
マネタリーモデルとは
マネタリーモデルは、為替レートは通貨を発行する国の金融政策によって決定付けられると言う考え方。この考え方は、「長期間安定した金融政策を続ける国の通貨は価値が上がる」逆に「金融政策に一貫性がなかったり、極端な積極策に走ったりする国の通貨は価値が下がる」ことを前提に成り立っている。
マネタリーモデルの使い方
マネタリーモデルでは、3つの要因が為替レートに影響する。
1:マネーサプライ【通貨供給量】
2:将来の予想マネーサプライ
3:マネーサプライの伸び率
これらが、為替レートに変動をもたらす可能性のあるマネーサプライの動向を把握する上で重要なキーになってくる。
事例
日本は以前、経済不況に陥り、不況から抜け出すのに10年以上の歳月をかけた。ゼロに近い金利、恒常的財政赤字により、日本経済は泥沼にハマっていた。
そのため、日本政府は経済復興のために打つ施策は1つしか残っていなかった。それが「日本円の増刷」。日本銀行は、インフレを誘導するために株式と国際を買い入れることで「マネーサプライ(通貨供給量)」を増やし、為替レートに変化を与えた。
超金融緩和と呼ばれる、このような施策こそマネタリーモデルは真価を発揮する。そして通貨価値が急激に下落しないようにするためには、「金融引き締め」しかない。
金融引き締めとは、中央銀行が物価を安定させたり、過熱気味の景気を抑えたりするときに実施する金融政策。 公開市場操作(オペレーション)や預金準備率を操作するなどの方法で、短期金融市場に流れるお金を減らし、それによって金利を上昇させる。
例えば、アジア通貨危機の際に香港ドルは、投機筋から仕掛け売りを浴び続けた。香港政府は、ドルペッグ(自国通貨とアメリカドルを連動させる固定相場制のこと)を解除し、下落を食い止めるために香港ドルの金利を300%まで引き上げた。例にないほどの超高金利を晒され、売りで仕掛けていた投機筋の大多数が、市場から一掃された。
香港経済は、超高金利の副作用で不況に陥ったが、ドルペッグ制を維持することで、マネタリーモデルは効果を発揮した。
マネタリーモデルの限界
このモデルのみに依存する専門家は殆どいない。理由は、貿易動向と資本移動については全く考慮されていないから。
事例として、2014年のオーストラリアは、「金利」「成長率」「インフレ率」のいずれの面でも、米国や欧州圏に比べて高い数値を出していたが、豪ドルはドルやユーロに対して上昇した。
このマネタリーモデルは、変動相場制が始まってからずっと苦しい展開を強いられてきている。このモデルは、そもそもインフレが進むと金利は高くなり、それと同時に通貨の価値を下げるという思想に基づいている。
しかし、この考え方は、高い利回りや好景気に沸く経済によって、株式相場が上昇し資本流入を引き起こすと言うことが考慮されていない。このことから、マネタリーモデルは他のモデルと併用することでしか、通貨の評価を導き出せないモデルである。